イラストレーター てりィ’S Factory

小説家 裕次郎 福生

《後編をアップしました》
「人と違うものを目指しているというポジションがほしかったから」。小説家を目指した動機について、ロマンティックな回答を期待してしまう元文学青年としては少々拍子抜けする言葉だ。彼はさらに続ける。「女の子に『いつになったら完成するの』と聞かれ、誤魔化し切れなくなって初めて書きあげた」と。これだけ聞くと、小説を書くことに対して情熱がないのだろうか? と疑いたくなるが、それは断じて違う。事実、知的障害者施設に勤務する傍ら睡眠時間を削って小説を書き、地域紙で連載するなど、「ド」がつくほど真面目に創作に取り組んでいる。小説を書くという「ふつうじゃない」行為が「ふつう」になるとき、動機が「ふつう」であるか「ふつうじゃない」かは、たいした問題にならない。小説家になる、または小説を書くという行為は、いったいどういうことなのだろうか。(文責:宮崎智之)

「なにか人と違うことをやりたい」

「何もしない大学生でいることが辛かった」。
米軍基地があり、小説や映画の舞台にもなった東京都福生市で生まれ、セックスピストルズなどパンクロックを愛して育った裕次郎さんは大学生の時、見事にサブカルをこじらせていた。

中学三年生の受験シーズン、偏差値教育を否定したドラマ「未成年」(野島伸司)に影響を受けたものの、現実的には難関校として知られる法政一高に進学。そして、そのまま法政大学に進み、導きだした答えは「なにか人と違うことをやりたい」ということ。

だからと言って20歳の青年に出来ることは少なく、ただただイライラが募るばかり。すぐになにかを成し遂げられるほど人生は甘くないのだ。しかし、いつの時代も青春は甘酸っぱく、裕次郎さんの青春もご多分に漏れず甘酸っぱい柑橘系の匂いを漂わせていた。2000年のミレニアム、新しい世紀の幕開けに浮かれる世間を尻目にして、純白の紙に墨と筆でしたためた言葉は「崖っぷち」。

「とにかくモラトリアムな状況でいることが耐えられなかったんです。今思えばなんであんなに焦っていたのか、よく分かりませんけど」。

「小説家を志望している」というアイデンティティ

絵を描くことが好きだったし、楳図かずおや諸星大二郎に影響されて漫画を読むことも好きだった。そんな中、シナリオの学校に行くことにしたのは「ただ受講料が安かったから」だという。

「脚本の学校に行っている」。そんな“肩書き”が裕次郎さんを楽(らく)にした。しかし、「シナリオといったらサブカル」というイメージに反して、「月9のトレンディードラマ的なもの」を目指している受講生が多かったという誤算もあった。ただ、シナリオ作りで学んだことはその後の小説執筆にもプラスになったし、映像を前提にしたシナリオより、文章だけで情緒を表現できる小説の方が自分に向いていると気付けただけでも、大きな収穫になったと言うべきであろう。

「脚本の学校に行っている」というポジションが、「小説家を志望している」というアイデンティティにすり替わった瞬間だった。

「もう書くしかない」

その後は「吹聴した自分と、本当の自分との溝を埋める作業」を行う毎日が待っていた。小説家を目指している自分と、それだけで満足してしまっている自分。書きたい衝動に駆られたわけでも、なにがなんでも書きたいという題材があるわけでもない。当時付き合っていた彼女と毎日会っていたため、書く時間がないという現実的な問題もあった。

しかし、大学も卒業し、いつもつるんでいたドレッドヘアの友人も就職した。「小説家を志望している」という大義名分をかざしてフリーターをしていた裕次郎さんも、次第に「はやく読んでみたい」という周囲の声から逃げられなくなってきた。「いま書いているところ」とかわすのにも限界がきていた。

そして23歳のとき、裕次郎さんは初めて原稿用紙300枚の小説を書き上げる。

以来、30歳になる現在に至るまで、彼は小説を書き続けている。

伊勢裕次郎 小説家

小説家への道

完成まで2か月の時間を要した処女作は、チンピラに追われている女の子を家にかくまい、恋に落ちるという話。「今思えば、ぜんぜん駄目」な作品だったが、「出来上がった瞬間は、すごい作品が完成したと思って即デビューぐらいに思い上がっていました」という。しかし、案の定、あちらこちらの賞に応募しても箸にも棒にも掛からなかった。

小説家を目指して、一作目を書いたが挫折。ここまではよくある話で、ほとんどの人がこの時点で諦めてしまう。しかし、裕次郎さんはそうではなかった。「一作目を書いている時に次の作品の構想が思い浮かんだという理由もありましたし、完成した時の興奮は何にも例えられないぐらいの喜びでした」。それに大学を卒業してフリーターをしている身としては、簡単に諦める訳にはいかなかった。

なかなか執筆に取り組まなかったのが嘘のように、その後は、スラスラと小説を書いていった。「ちょうど、筋肉トレーニングをしているような感覚。自分でも書くたびに上手くなっていくのがわかるんです」。努力は結果へとつながり、グッドブック出版の小説賞でグランプリを獲得。これまで「そりゃ俺だって死にたいさ」、「心臓ジェット」を出版したほか、合同作品集には「ロイヤル・ストレート・クラッシュ」を収録、現在は西多摩新聞でサスペンス・ミステリー小説「弱虫時計と君だけの神様」を連載している(バックナンバーをブログで公開中)。

たしかに初めは若者にありがちの見栄だったり、「何者かになれる」という勘違いからはじまったかもしれないが、今では「いつかは専業作家になりたい」との思いは強い。「もし、昔の自分に会えるなら、『継続は力だよ』と言ってあげたい」。そして、今日も仕事が終わった後の時間を使い、深夜まで小説を書き続けている。

気持ちの変化

筋肉少女帯が好きで、シナリオ学校時代は「月9のトレンディードラマ的なもの」にうんざりしていた裕次郎さんだったが、現在では「やっぱり月9はすごい」と思うようになった。

「小説でも漫画でもサブカルっぽいのが好きだったんですが、20代後半からピンとこなくなってしまいました」。それは、やはり「小説で食べていきたい」という意識が芽生えたからかもしれない。「分かる人だけに分かる作品を書く必要があるのか、と思う時があります。やはり王道の持つ力はすごいですから。ONE PIECE(ワンピース)とか、ふつうに面白いですもんね」。

人間は変わる。例えば裕次郎さんも若い頃はカート・コバーンやシド・ヴィシャスのような「夭折」に憧れていたこともあった。しかし、今では「生きていることに意味がある」と思うようになったという。「ちょっと怖いのは、もしかしたら自分はサブカルなんて好きじゃなかったのではないかと思うことです。そういう作品を読んでいる自分が好きだっただけなんじゃないかって」。しかし、寺山修司など本当に好きな作家の作品は、今でも好きなままだ。

逃げられない自分を受け入れること

「天才じゃないことは、だいぶ前に気がついているんです」。大学を卒業して、ふつうに就職すれば、もっと安定した人生を手に入れられていたかもしれない。「小説家を目指している」と吹聴していながら一作も書けなかったあのころ、自信があった処女作がどの賞にも選ばれなかったあの時。逃げ出してしまうチャンスはいくらでもあった。どちらの道が良かったのかは、今になってみれば分からない。だだ一つ、はっきりと言えることは、とにかく「逃げられなかった」ということだけだ。

2010年6月に出版した「心臓ジェット」は、自分の心臓をジェット機だと思っている少女・見空の成長物語。物語の後半、“いい年して夢見る”男・アガマが見空に、こう気持ちを吐露するシーンがある。

「・・・全部嘘っぱちだったんだ。本当は夢だとか、芸術家だとか全部嘘っぱちだったんだ。オレはただ大人になりたくなかっただけなんだ。皆のように生きる自信がなかっただけさ。自由だの夢だの言って逃げていたんだ。どんだフェイクさ。見空は賢く生きろよ」



もちろんアガマは賢く生きれる男ではないし、それは裕次郎さんも同じ。「全部嘘っぱちだった」と潔く投げ出すこともできない。「3日に1回は逃げ出したい」と思っているが、様々な矛盾を抱えながらも、今では逃げられない自分を受け入れて、とにかく前に進んでいる。「強いて言えば私にとっての“ふつう”は、そんなことなのかもしれません」。

「今でもお金持ちになりたいという希望はありますよ。やはり今は売れたいという思いが強いです。目標はお茶の間にいるような“ふつうの母親”が読んでも楽しいと思える小説を書くことです」。

座右の品
かもめのジョナサン

他の人が生きることに執着している中、ジョナサンは飛ぶスピードだけを求めて生きている、そんなストーリーを人づてで聞いて影響されました。実際には最後まで読んでいないですけどね(笑)

【略歴】

1980年4月2日生まれ おひつじ座 東京都福生市出身・在住 O型 福生市立福生第七小学校→福生第三中学校→法政大学第一高等学校→法政大学経済学部・シナリオセンター→フリーター→精神障害者施設勤務→知的障害者施設勤務・小説家【家族構成】父母兄【趣味】猫と遊ぶこと【好きな食べ物】モスバーガーのサウザン野菜バーガー【嫌いな食べ物】大きく切った野菜と果物【好きなタイプ】自分のことが好きな人(笑)【嫌いなタイプ】言葉使いが悪い人【子供のころの夢】ロックスター【お気に入りスポット】福生市の多摩川南公園の近くにある睦橋の下【座右の銘】かくあらず

【ブログ】
伊勢ビシャスの勝手にしやがれ!! 
小説「弱虫時計と君だけの神様」

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2010-09-30-THU






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