小田晃生

初めて彼を見たのは、いつだっただろうか。おそらくその時も彼はギターを弾いて歌っていたに違いない。それから幾年か経ち、今回、彼を取材をするに当たって、いくつかの疑問が私の頭に浮かんでいた。一つは彼の人生、特に15歳で単身上京したことの真相について。もう一つは何故、彼の音楽はこうも私の心を震わせるのかということ。彼は語りだした。ゆっくりと。確実に。彼の書く歌詞のように「嘘のない」朴とつな語り口で。(文責:宮崎智之)

ジャージに坊主頭が文化祭でロックスターに

渋谷で生まれてすぐ岩手県に引っ越した「渋谷生まれ岩手育ち」。4年前にできたコンビニには自転車で40分、隣の市にも山一つ越えないと行けないような人口約6900人の田舎町で、お寺の長男として育った。小学校低学年までは肥満児で、運動会では常に敢闘賞。そんな少年が音楽と出会ったのは、あるひょんな出来事からだった。

中学2年生の終わりごろ、音楽の授業で同じだった友人たちがバンドを組もうと話をしていた。「初めはどうしようかな? 自分もやってみようかな? という程度にしか思っていなかった」。しかし、「LUNA SEAで誰が好き?」という友人の質問に、よく聴くラジオ番組のパーソナリティーをしていた「真矢」と何気ない気持ちで答えたことがきっかけで、ドラムを担当することになった。

そして、翌年の文化祭でライブをすることに。「田舎の学校だったから、ライブをするなんて学校始まって以来の一大事。普段はジャージに坊主頭だったけど、その時だけは私服を着て演奏した」という。結局、偉い先生に「うるさすぎる」と止められ3曲くらいしか演奏できなかったが、「観客(生徒)も凄いテンションで幼稚園の頃に自分をいじめていた奴まで興奮していた。田舎では誰でもロックスターになれるんです」と、箸をスティック代わりにおどけてみせる

彼の心の中に燻り出した炎は、もう誰にも止めることはできなかった。「ここにいたんじゃ、やりたいことができない」。お寺の子として、さまざまなしがらみの中で育ったことへのストレスも溜まっていた。そんな彼を見て親も「若いときぐらい自由にさせてあげたい」と、いずれ24代目住職になるだろう息子を気遣った。(のかもしれない・・・)

しかし、その読みは大きく外れることとなる。長い間、鬱積して一気に噴出したエネルギーは、両親が想像していた軌道から彼をはじき出し、無重力の宇宙空間へと解き放つことになってしまう。

普段の自分に近い言葉を選び、ありのままの気持ちを素直に表現

わずか15歳で親元を離れ、埼玉県の自由の森学園高に入学し、寮生活を始めた。授業をサボって廊下で歌ったりするような高校生活を送り、卒業後、自由の森で出会った友人たちと「Co-rchestra(コケストラ)」を結成。2003年9月と10月にミニアルバムを連続リリース、2005年にフルアルバムを発売した。そして、このほど、初のソロアルバム「まるかいてちょん」(2100円)をモナレコードレーベルからリリースする。

ソロアルバムにはギター一本で弾けるシンプルな曲を中心に収録。普段の自分に近い言葉を選び、ありのままの気持ちを素直に表現した。収録曲の中の一つ「里帰り」は、友人が急性白血病で亡くなり、葬式に出るために帰省した時の気持ちを歌詞に綴った作品だ。

「特別に親しかった訳ではないけど、一緒に馬鹿やった友人だった。悲しいという気持ちもあったけど、突然だったので、現実味がなくて。亡くなった後も携帯にアドレスが入っていたり・・・。その後、友人たちと飲んだ酒のことばかりが、印象に残っていたんです」。そんな「嘘のない」想いを歌詞に乗せ、現在の曲作りの基礎となる一曲に仕上がった。

「もともと自分で何かを創って発信することに興味があった。いろいろな人との出会いの中で、それが音楽になっていたんです。自分は本当に運がいい」。あの時、「LUNA SEAの真矢が好き」と言わなければ、あの時、上京を決意しなければ・・・。一度きりの人生に「もしも」はないが、多くの選択肢の中から彼が自ら選び取った道だからこそ、価値があるに違いない。

東京に生まれ、何の抑圧もないサラリーマンの家庭に育った私にとって、彼の内から噴出されるエネルギーは時に眩しく、劣等感すら覚えることがある。しかし、それ故に私の心を強く揺さぶり、「嘘のない」言葉が深部まで浸透するのかもしれない。

もちろん、お寺の子という現実が全て解決している訳ではなく、未だ宙に浮いている問題も多い。しかし今は大好きな音楽に打ち込むことだけを考えている。「結局、人から褒められるものは音楽しかありませんから。自分は褒められるのが大好きなんです」。

座右の品
ジャスト・アバウト・エヴリシング

実際にはできないかもしれないけれど、こういう歌い方をしたいアーチストの一人

【略歴】

1983年 12月16日生まれ 23歳 東京都渋谷区まれ 岩手県住田町育ち 東京都立川市在住 町立下有住小学校→有住中学校→私立自由の森学園高等学校→ミュージシャン【星座】射手座【血液型】A型【家族構成】祖父、祖母、父、母、妹2人【趣味】映画鑑賞、中古CD古本屋めぐり、記録を付けること(ライブした場所や家計簿など)【今一番食べたいもの】カレー【嫌いな食べ物】アワビは、あまり理解できない【お気に入りスポット】玉川上水、家【尊敬する人】ミシェル・ゴンドリー(映画監督、代表作に「エターナル・サンシャイン」や「恋愛睡眠のすすめ」など)【座右の銘】触らぬ神に崇りなし【好きなタイプ】無理がない人、嘘っぽくない人【嫌いなタイプ】自分が何か言うとそのたびに「あっ、はい」と何度も言う人【子どもの頃の夢】大工さん

小田晃生のホームページ http://www.chicchaitanbo.net/

【リリース情報】
「ずっコケストラ物語」コケストラ(2008年)
「発明」小田晃生(2008年)

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2007-10-15-MON






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