門田美雪さん 運送会社営業

《後編をアップしました》
「一杯1000円のビールが高いと思える人で、でも絶対に飲めないなと思わない人はふつうの人だと思う」。ふつうについて問われた門田美雪さんの答えの一つだ。「すごいお金持ちを見てうらやましいと思ったり、すごく貧しい人をかわいそうと思ったりする人、そういう人はふつうだと思う」。(文責:保科時彦)

「選択肢が多い日本との価値観のギャップをまざまざと見せられた」

フーテン気質で、アケスケでシャキシャキ、美人、巨乳。第一印象はそんな感じだ。しかしどこかに「あの娘はきっと本物のお嬢さん」といった佇まいを兼ね備えている。名門・都立日比谷高校を卒業し、「まったくこだわりはなかった、家から近かった」という理由で女子大に進学。大学4年生の頃に卒業旅行で行ったインドでの滞在経験が人生観に大きく影響している。いまだカースト制度の名残が色濃く残るこの国では、裸足の少女がいくらにもならない花を売って歩いている。彼女が少女に「今幸せ?」と問いかけると、少女は「幸せ」と答えた。その時の笑顔が脳裏に焼き付いているという。

「選択肢が多い日本との価値観のギャップをまざまざと見せられた」。旅行のつもりで一緒に行った友人が帰っても、自分ひとり滞在を続け、結局、卒業式のギリギリまで滞在することになった。

ウェブ系の人材派遣会社を経由して編プロに出戻り

学生時代から編プロでアルバイトして、将来は編集者になりたいと思っていたというが、大学卒業後、まずはウェブ系の人材派遣会社に勤務するとこになった。しかし、ここにはもともと長く勤める気はなく、面接でも「3年はいません」と宣言していたようだ。尊敬する先輩が転勤になったり、社内で業績がトップになり表彰され、「自分が目指していた成長はできた」と、1年半ほどで退職した。学生時代にアルバイトしていた編プロに出戻り、ようやく本当にやりたかった編集の仕事に就くことになった。

編プロは噂に違わぬ激務っぷりで、3回救急車で運ばれたという。2〜3日家に帰れないのはざらだし、土日もない。しかし校了後の達成感は突き抜けたものがあるという。「何日も前から長期のスパンで張っていた伏線が一つになったときの快感は麻薬のごときもの。喉元過ぎれば…とはよく言うが、辛さを忘れてしまう」という。

放浪生活へ

そうは言ったものの、あまりの忙しさに2年弱で「自分のやりたいとこのキャパを超えてしまって」退職することになった。編プロを辞めてからは、ちょくちょく色々な編プロの仕事を手伝いながら、放浪の生活に明け暮れることになる。

「よく言えばフリーで。編プロ時代、使う暇なくて、お金は貯まってたから、旅行でベトナム、カンボジアに行ったり、北陸、九州、大阪、沖縄、韓国に好きなバンドのライブだとか遊びに行ったり、気分で滞在して。それにあわせて、現地で仕事あれば、手伝わせてもらったり、日雇いのバイトで小銭を稼いだり。友人の家に居候したり、単身赴任中の父の家にいったりしていた」。

放浪中は、別府で立ち登る湯けむりを見て過ごしたり、ひねもす高崎山で猿を見たりして過ごした。「猿の見分けがつくくらい毎日のんびりしていた」と当時を振り返る。金沢から東尋坊に行こうとして、バスが終わっていて、福井の鄙びた駅前で途方に暮れたこともあった。

「携帯のバッテリーも切れて、身動きとれなくなって、駅前の飲み屋で何となく飲んでいたら、いきさつを知った隣のカップルが、実家が民宿だからということで、泊めてもらうことができた。こういう見知らぬ人に何度も助けられた。本当に人に恵まれて、無償の親切に感謝している」。

次の日に行った東尋坊では、崖の上からひたすら波を眺めていたので、自殺者と間違われて、地元のおじさんに声を掛けられ、海老をごちそうしてもらったこともあった。東京のライブで知り合った地方の人の家に泊めてもらうこともあったようだ。男性の家ということだから、親切心というより下心を疑いたくもなるが、「体の関係にはなっていない。なってたら、こんなに感謝はしていない」という。

そして門田さんは稼げるニートとしてピンクな世界を覗きにゆく。


門田美雪さん
風俗取材から見えてきた「幸福論」

行く先々の地方で、風俗サイトの紹介文、エステや美容系の口コミサイトの取材、FX投資入門の取材文などを書いた。他には著作権がある写真の使用申請や、校正、ビジネス書の要約など、会社を離れても編集の仕事には携わっていた。一時は編プロ時代を凌ぐほど、稼いでいたという。

風俗の取材では、色々な人に出会った。

ソープやピンサロで働く女性の心理というのは、男性のみならず、女性にとっても摩訶不思議な領域だ。OECDに加盟する先進国で、格差を示すジニ係数もまだまだ世界的には低い日本において、売春する理由は何だろう、借金のカタに泡風呂に沈められたか、ニンフォマニアか、はたまた、淋しがりの極地に達したか……。「当然どこかおかしなところはあるけど、ほとんどふつうの人がお金欲しくてやっている」と彼女は言う。

「多いのが、キャバ嬢がホストにお金を注ぎ込むあまり、いくらお金があっても足りなくなり、手っ取り早く稼げる風俗界に入る」。自身もプライベートでも取材でもホストクラブに行ったことはあったというが、ホストに入れ込んだり、貢いだりしたことはなかったそうだ。

中には「本職が獣医の人で、保健所から処分される犬を見るのが耐えられずに次々引き取って、その犬を養うために夜はソープで働いている人もいた。その人の価格基準は犬の缶詰で、この服を買うお金で缶詰何個買えるとか、そういう価値観を持っていた」。注ぎ込む対象がホストか犬かは違えども、精神構造はまったく一緒である。門田さんは「これで幸せなの?」と聞くとその風俗嬢たちは「これで幸せ」と答えたという。「そこまでして欲しいものがあることに対しては羨ましく思う。私には、ない」。

どんな職業であれ、貴賎はないというのはキレイ事かもしれないが、風俗嬢のプロ意識はすごい。門田さんが「実際お客で来る男に対して、奥さんとか、彼女とかいるだろうけど、自分が性欲の処理をしていることはどう思う?」と聞くと、「奥さんとか、彼女とかは所詮素人だからね」と返されて、ショックを受けたこともあった。彼女は19歳だったという。

本物のお嬢さんという要素

日雇いと放浪のヒッピー生活に痺れを切らしたのは母親で、去年の冬に「いつまでもダラダラしてるな!」と怒られてしまった。そこで、新聞の折込広告で見つけた運送会社の営業職を見つけ、就職して今に至る。「仕事って、1日のうちのほとんどの時間を費やしてるでしょ。仕事で手を抜いたり卑怯なことすると、それがそのまま自分の人生の姿勢になるような気がして、大変でも手を抜けない。でも、それでお客さんや同僚が喜んでくれたら、ホントにうれしい。忙しい時はトラックの中で寝たり、事務所の中でダンボールやプチプチに包まって寝たりすることもあるけど」と、タフな笑顔を見せる。

今彼女はふつうの人を自認している。確かにそうだが、見た目や話し方には表れない奥深いところに彼女はきっと本物のお嬢さんという要素がある。それは彼女の出自に関係している。彼女の父は皇族の親戚と九州大学医学部の名誉教授というやんごとなき血筋の生まれだ。しかしビートルズにははまって、ミュージシャンを夢見て、上京、大学の喫煙所でタバコを吸っていた当時モデルの母に一目惚れして、付き合いだしたという。

やんごとなき実家からは結婚を反対され、母に対して興信所を使って身元を探りだす始末。当然結婚式を挙げることも許されず、二人で教会を訪れ、ひっそり式を挙げたという。その日雪が降っていたので、門田さんは“美雪”と名づけられた。この名前は歴代の彼氏にも呼び捨てにさせたことはない。

「財産や地位を捨ててでも、一緒になりたいと思った人と暮らす幸せを体現した人が父だったから、今の私の性格があるんだと思う。華やかな幸せよりも友人とか家族とか今いる人達とのこの幸せを大切にしたい」。

座右の品
ダメ犬グー 11年+108日の物語

ちょっと間抜けなただの犬。ドラマチックなことは何もないが、死んでしまった時の作者の喪失感「当たり前のことが当たり前にあることの幸せ」を感じる。大事な人に読んで貰いたくて、いつでもあげられるように家にストックが2冊ある。

【略歴】

1984年1月1日生まれ 山羊座 東京都杉並区出身 大田区在住 大田区立馬込第三小→同区立貝塚中→都立日比谷高校→清泉女子大学文学部日本語日本文学科卒業→ウェブスタッフ→編集プロダクション→稼げるニート→運送会社事務【血液型】O型【家族構成】両親弟祖父【趣味】スカパンク、メロコアバンドのライブ、マンガ、スノーボード、読書【好きな食べ物】甘いもの、ジャム、ハチミツはそのまま食べる。ジャムを入れた紅茶【嫌いな食べ物】メロン、生魚、セロリ、豚足【尊敬する人】孫正義(覚悟)、イチロー(努力)、ガンディー(平和)、【好きなタイプ】ガリガリ、髪ふわふわ、関西弁、喜怒哀楽の怒がなくてまろやかな人【嫌いなタイプ】高圧的な人【子どもの頃の夢】お母さん。結婚というより子どもが欲しかった。弟が生まれたときはすごく嬉しかった。自分はそれまで、両親の愛を一人で受けていたから、いつも弟に自分のアイスクリームを半分あげていた【将来の夢】専業主婦。自分の母がそうだから【お気に入りスポット】代々木公園、海ほたる(目的地を決めたドライブが好き。自分で運転する) 

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2010-06-17-THU






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