彦坂玲子

彦坂玲子さん(30)のものさしは、いつも自分。社会的な基準や人にどう思われるかではなく、自分で判断し、自分がいいと思えばそちらを選ぶ。そんなマイペースな彦坂さんは、おっとりとしていて人にも優しい。心に余裕があるのだろう。平日は昼頃までオフィス街にある小さなコーヒー屋で働き、午後と土日は下北沢にある雑貨屋「ecume」で、クチュリエ(フランス語で「裁縫する人」の意)として友達と洋服や小物を作って売っている。そして夜は地元にステキなバーを知っていてウィスキーを嗜んだり、休みの日は趣味で着物を着たりと、仕事も生活も楽しみながら暮らしている。自分上手という言葉がぴったりだ。(文責:富永玲奈)

意外にも窮屈だった美大生活、彼女が選んだ道とは?

小さな頃は早熟で、いわゆる子どもらしい子どもではなかったと話す。世の中に興味がなく、ひとりでいることは今も昔も全く苦痛ではない。まわりにいる同年代の子どもらしい子どものように、どうして自分は無邪気にはしゃげないのだろうと思うこともあった。

中学高校は、個性を重んじる自由な校風を謳った学校で、それには少しだけ救われた。けれどやはり彦坂さんは集団に属して何かを我慢することが出来ない。自分のしたくないことは、したくない。「普通の学校だったら、絶対いじめられてたんだろうな」。だが自由で好きにできるこの学校にもどことなく馴染めなかったのは、学校という箱そのものが彼女には窮屈だったのかもしれない。高校卒業後は美大に進学。劇場美術コースに進んだ理由をこう話す。 「小さい頃からバレエをやっていて、舞台裏の感じが好きだったから」。特に舞台でも衣装に興味があったという。

だが彦坂さんが話す美大の学科での様子は意外にも集団行動中心で、むしろ出る杭は打たれるといったような、互いを牽制し合っているところだったという。これだと確かに彦坂さんの性格には合わなそうだ。「びっくりして、正直がっかりした。人間関係とかめんどくさくて」。

そして3年生の終わりに、彼女はそんな環境を「いちぬけ」することを決意。しかし、ただ辞めるだけというのも心許ないと思っていた。やりたいことと居心地の悪さに板ばさみになるのは、辛い。やりたいことをいいと思える環境で活かせるような次なる進路に考えあぐねていた春休み、ニューヨークに留学している高校時代の友達を訪ねた。

留学という道もありだ。

自分のやりたいことができそうなフランスに留学するという道を彼女はついに見つけた。

「ふつうの人って、すごく肯定的な意味でしょっちゅうブレている人じゃないかな」

そこからの行動は早く、早速4月からフランス語学校の名門アテネ・フランセで基礎の基礎からフランス語を学ぶ傍ら、衣装専門に特化してフランスでの学校探しに精を出した。行きたい学校が見つかると留学の目的が明確になって語学の勉強もはかどり、気づいたら入門科では足りないというレベルになっていた。次に入ったクラスでは週6日、朝から晩まで軍隊並みに過酷なフランス語の特訓を受け、途中で脱落することなく見事修了。

「キツかったけれど、私なんて初級者だし他の人と比べてもできなくて当たり前で、どうにでもなれって感じだった」。このように思えるのはやはり彼女のものさしが人と比べて優劣というのではなく、あくまで自分だったからであろう。

そのためか彼女はフランスに留学してからも異なる環境にいたずらに振り回されることはなかった。最初に入った語学学校でも、「いろんな国の人とうまくやっていたし、特別辛いことも別に…。日本人同士のほうがあんまりうまくいかないなーなんて(笑)」とおっとりと振り返る。そして7年間をここフランスで過ごすこととなる。

約2年半リヨンで語学と衣装の専門学校に通った後、都会への関心からパリへ。彼女の両親は娘がフランスで活動することを望んだし、経済的な支援もずっと続けてくれた。パリでもファッション関係の学校に通い、運がいいことにオートクチュールのお店でクチュリエの仕事に就くことができた。聞くかぎり自分の興味を仕事に繋げることができた彦坂さんの留学は、とても着実だ。しかし彼女はそんな自らの留学を「モラトリアムみたいな留学」と語る。

「得たものも多いけれど失ったものも、すごく多いよ。20代ほとんどフランスだし。消耗することが多かったしねとにかく。帰国した理由も、結局この仕事をずっと続けていくかわからないしそろそろ帰ろうかなーって感じで」。

そしてこう続ける。「自分のこともひとごとっぽい。俯瞰的に見ちゃうんだよね。どんなに辛いことになってもどん底までいくことはないと思うから。自分のよりどころは自分だけで、本当、自分しかないの。別にいつどうなっても、いいっていうか」。

自分勝手ではなく、自分上手。彦坂さんにとっての「自分のよりどころ」はなんだか、変な自分のこだわりに固執することではなく、むしろそういう自我を突き放す姿勢にあるように感じられた。とはいえ「投げやり」とも言いがたいのだ。なぜなら、物事に対してしっかりとした自分の意見を持っていて、驚くほどきちんとそれを伝えることができるのだということが「ふつうの人とはどんな人?」という質問を投げかけたときにわかったからだ。

「ふつうの人っていうのは、すごく肯定的な意味でしょっちゅうブレている人じゃないかな。自分も趣味とかコロコロ変わるし。今まで出会ったふつうじゃない人は、コレって決めたことしかやらない人…。1つのことがいいと思えたり悪いと思えたり、その時々によって自分の気持ちって変わるものだと思う。それが、ふつう」。

では、ブレないことが美徳のような、最近の一般的な考え方をどう見る? 「ブレないことが恰好いいみたいなのは、一昔前の『個性的』みたいなもんじゃない?『個性的』が流行る、ってどういうこと?みたいな(笑)。個性的=比べるものさしが違うってことじゃないかな。どっちが個性的とか、おかしいよ」。

この人は本当に、どこまでも自分上手だなあ。こんな自分上手の達人が作る雑貨はきっと素敵なものに違いない。今度彼女のお店にひょっこり行ってみよう。

座右の品
プーと本

生後2週間から持っているくまプーと、本いろいろ。手放せません。

【略歴】

1977年5月2日生まれ 東京都品川区出身、在住 板橋区立徳丸小学校→恵泉女学園中学校→同高校→多摩美術大学芸術学部劇場美術コース3年次中退→リヨン2年半→パリ約5年→帰国【星座】牡牛座【血液型】A型【家族構成】父、母、兄、猫【趣味】読書、着物など【好きな食べ物】白っぽくて柔らかいもの(豆腐、生麩など)【嫌いな食べ物】マヨネーズ、まずい味付け【お気に入りスポット】昔の池袋リブロブックセンター、本屋さん全般【尊敬する人】父、母、友達、など身近な人【座右の銘】因果応報【好きなタイプ】半分は自分と一緒で半分は全然違う人【嫌いなタイプ】私に媚びる人【子どもの頃の夢】名探偵

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2008-12-01-MON






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