田島麻梨子:

華奢な外見に瀟洒(しょうしゃ)な身なり、この人が本当にバックパックでヨーロッパを彷徨っていたとはちょっと想像がつかない。ツアー旅行と違って、自律心とタフネスが要求される旅から最近帰国した田島麻梨子さん(25)。三ヶ月で11の国の美術館行脚を敢行した。「知らないものをいっぱい見たかったし、ガウディとかフンデルトヴァッサーの建築とか前から気になってたものを直に見たかった」という。しかしこの旅を通して彼女が一番見つめたものはどうやら自分自身だったようだ。(文責:保科時彦)

「ホントに異性に惚れにくいんですよ。一人でいるのも全然平気だし」

小学校の頃の彼女は目立ちたがり屋で、班長とか部長とか、なにかとつけて「長」になりたかったという。「男の子も人気者の人が好きで児童会長の人とかが好きでした」。小学生から中学生くらいまでは男女ともに人気はとりわけ目立つグループに属する少数の人に集中する傾向があり、高校くらいからマイノリティにも日が当たり始めるのだ。ヘーゲル的に言えば「欲望は他人の欲望」ということなのかもしれないが、彼女も状況の中心にいた。

高校の頃から彼女は美容師を目指すようになり、美容専門学校に進んだ。「その頃は技術を身に付けたい、うまく髪切れるようになりたいと考えていました。でも実際就職してからサーヴィスの楽しさを知りました。つらいところを挙げればキリがないけど、人が喜んでくれるのがダイレクトに伝わるのでやりがいはあります」。自分の存在が他者の中で大きくなっていくのを心地よく思うことは自然なことのように思える。人は他者を介してしか自分を認識し得ないのだから考えてみれば当たり前のことだが、彼女はここにおいて一つの自家撞着を抱えていた。

「ホントに異性に惚れにくいんですよ。一人でいるのも全然平気だし、むしろ映画とか美術館とか一人で行くほうが好きです。今までの彼氏はようやく惚れてきたかな、っていうときに別れちゃって……。でもごくあっさり別れました。楽になったな、くらいに思ってました」。小学校時代、憧れで恋をしていた少女は、他者に依存することを必要としなくなったのだ。

「ずっと私にアプローチし続けていた人に対して、友達にしか思えなかったんですが、こっちがようやく好きかなと思ったときは向こうが私のことを友達としか思えないと言われたこともありました」。

彼女は冷たい人でもないし、思いやりがないわけでもない。「旅行中はパリを拠点にしていたんですけど、そのときは友達の男の人の家に泊めてもらってたんです。中性的な……、むしろ女の子っぽい人だったんで安心していたんですが、関係求められたんです。断りましたけど、これだけ一緒に寝泊りしてるんだから好きになれたらいいのにな、とも思いましたがやっぱり無理でしたね」。

「一人でいることの淋しさ」を知った欧州放浪

旅行するに当たって彼女は5年勤めていた美容室を辞めた。「この仕事が嫌いなわけではない。技術はやればやる程付くが、自分はホントに自分の気持ちに納得しているのだろうか」という考えが胸を去来し続けていたそうだ。手荒れも酷く、腕まで湿疹。休みも取れない重労働。それでも彼女は今も美容師の職を探している。「他に手に職がないっていうのもあるんですが、自分じゃないと嫌だっていう人がいるんです。こんなに嬉しいことはないです。創造と接客。生の商売なんで。お客さんを仕上げるのは気持ちいいです。今はアップスタイルとかデートやパーティーなどの特別な日にさっとアレンジするようなことをしたいです」。

旅行から帰っても彼女のこの職業への思いは変わらなかった。でも大きく変わったこともある。「一人でいることの淋しさ」を知ったのだ。

「旅行で出会う人にかなり色々助けてもらいました。色んな人に支えてもらいました。今思うと自分は長女で、無意識のうちに『しっかりしなきゃ。親に心配かけないように』って気負っていたんだと思います。どっかで強がっていたんです。自分でも気付かなかったけど、ホントの私は甘えん坊で、自分独りで生きてきたわけじゃない。突っ張ったって、親とか出会った全ての人に支えられて、私があるんだと気付きました」。

フロイトならこう言うだろう。彼女が旅に出た理由は意識のもとでは「美術館行脚」であったが、無意識のもとでは、自己の抑圧された欲求の顕在化へのイニシエーションであったのではないか、と。

座右の品
鈎針

この鈎針はあたしが旅に行っている間に実家の北海道に帰ってしまった友達からのプレゼント。 だから直接は受け取れず他の友達伝いだったんだけど、「あたい、まりこにしか髪切らせないんぜ」のメッセージに号泣しました。

【略歴】

1981年10月4日 25歳 埼玉県上尾市出身 埼玉県熊谷市在住 上尾市立西小→同市立大石南中→大宮市立(現さいたま市立)大宮西高→日本美容専門学校→美容室5年→3ヶ月間ヨーロッパ旅行→帰国【星座】天秤座【血液型】O型【家族構成】父母弟祖父【趣味】手芸、お料理【好きな食べ物】アボカド【嫌いな食べ物】たまねぎ【お気に入りスポット】京都【尊敬する人】アントニオ・ガウディ【座右の銘】なんくるないさ【好きなタイプ】自分がある人、尊敬できる人【嫌いなタイプ】器の小さい人【子どもの頃の夢】歌手、ミュージカル【旅行で周った国】イギリス・フランス・ベルギー・オランダ・ドイツ・チェコ・オーストリア・スイス・スペイン・スウェーデン・フィンランド【好きな休日の過ごしかた】美術館、外出(最近は一人が淋しいので引き篭ってる。母と仲がいいので母と買い物などに行く)

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2007-10-15-MON






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