ツチヤコウヘイ

《後編をアップしました》
「二十代後半は必死だった」。三十代の人はいう。仕事の裁量や責任が増え、周りからの扱いも変わってくる頃で、社会人にとっては新人から脱却し一人前へと“変化”を遂げる時期。誰もが壁にぶつかりながら、それぞれに乗り越えていかなければならない年齢なのかもしれない。ツチヤコウヘイさんもそんな二十代後半の一人。彼は言う「今は価値観の転換期」だと。世の中の大きな“変化”と個人のレベルでの“変化”が重なる“今”。若者は何を感じ、どんな未来を見つめているのだろうか。(文責:吉田直人)

今、世の中で起きていること

日本一変化と流行に敏感な街、渋谷。
センター街の喧噪を抜け、落ち着いた雰囲気の一角にあるマンションがツチヤコウヘイさんの自宅兼仕事場だ。ツチヤさんはwebや映像コンテンツの制作会社勤務を経て、2009年からweb、映像のデザイナーとしてフリーランスで活躍している。彼が感じている“今”、世の中の“変化”と“可能性”とは?

「webの普及や発展により、これまで金銭を介して得られてきた喜びや楽しみといったものが無料で楽しめる時代に変わっています」。ツチヤさんは、これまで『金銭』という明確な指標があったものが、より精神的で感覚的な『おもしろさ』にその焦点が移っていくのでは、と感じている。無料ゲームや音楽の配信、ビジネムモデル自体が変化を迫られるように、それらをとらえる価値観が大きな転換期を迎えている。

見えなかったものが見えるようになり、より“感覚的”な世の中へ

「twitterなんてその最たるものですが、これまで見えなかったもの、例えば『一人の時の本音』というものが見えるようになった」。驚くほど暗かったり、しょうもないこと考えていたり…思わず人となりが現れてしまう魅惑の140文字。

「でもこれってそれまで表に出てなかったものが出てきているわけなんですよね」。それによってどういうことが起こるのか。彼は続ける「相互発信であるwebっていうやつは、人が黙らないんで。多数決や、“声のでかい奴の一言”で決定ってことになんないんですよ。常に、微細な変化が起こり続ける」。“声のでかいメディア”、つまり「マスメディア」の意向によらない、ブームや価値が誕生し、存在し得ることを意味する。

「たとえ始めは小さな声でも、じわじわとくすぶってて『なんかいいよねぇ』って言う人がある程度集まれば、それが一気に火が付いて広がったりする。また、広がりすぎたら自然の力で落ち着くべき所に落ち着く」。ツチヤさんはそれを「感覚における“見えざる手”」と呼ぶ。「だから、そんなふうに『なんかいいよねぇ』と人をくすぐっていくようなものを作っていきたいと思っています」。

渋谷に住む意味は?

世の中の流れと変化に、常に敏感な姿勢のツチヤさん。彼にとって“渋谷に住む”ということの意味とは?

「やっぱりフットワークが全然違うんですよ」。終電を気にすることもなく、いつでもすぐに出掛けていける。スマートフォンの普及や、twitter、ustreamなどによって、どこにいても情報は得られるようになった。もちろん彼も四六時中、webに接続している。それでもそれらを扱い、実際につなげていくのは“人”。「思うほど(家賃)しないんですよ」と言って笑ってみせる“都心の城”は、間違いなく彼の武器の一つになっている。

“ものづくりは好きだった”名門高校卒、早稲田中退、映像制作へ

ツチヤさんはどんな少年だったのか?

私立渋谷教育学園幕張高といえば有名な難関校だ。そこへ附属中学校から通っていると聞けば、子供のころから秀才で通ってきたのだと思う。「いえいえ、そんなこと全然ないんですよ。成績はだいたい中の下でしたし」。謙遜しているが、中学校受験の前は一日13時間勉強。大学受験は浪人の後半から頑張ったというから、やはりすごい。「短期間に集中するタイプなんですよね」。今に通じるエネルギーは幼少のころからのようだ。

小さなころはマンガを描いたり、友達と秘密基地を作って、そこにこもったりして遊ぶのが好きな子供だった。中学、高校時代は演劇部に所属して役者として活躍する。「ものを作るのは昔から好きだったんですけど、(演劇は)仕事にはならないなーって思って」大学へ進学してからは映像に興味が向いていった。学生時代に出会った人の影響もあり、自主映画作りや、webの制作をしていたら、それが人よりもできた。「学校よりもこっちが面白くなってしまって」大学を中退し、映像制作の会社で働き始めたのだった。

自分の役割”がはっきりしていないとつらい

「学生時代は、あまりクラスに馴染めないタイプでした。変な子だったと思いますよ」。

世の中には色々な人がいる。組織の中で役割を与えられることによって、力を存分に発揮する人、自分で組織を作って人を動かす人、自分の持ち味を活かして、道を極めていく人。ツチヤさんは言う「“自分の役割”がはっきりしていないとつらいんです」。役割に関係なくグループ分けされてしまう学生時代の“クラス”というものが苦手だった。彼の言う役割というのは、人からこれをやって下さいと決められるものではない。「例えば文化祭などで、『では接客をやって下さい』とかだと全然駄目で。それは自分以外でもできるものだから。そうではなく、“自分はこれができる”から、全体の中でその“役割”を担うというような」能動的な意味での“役割”。つまり自分の武器、持ち味のことだ。「だから社会人になって、すごく楽になりました」。

“プロフェッショナル”というのはスポーツ選手や職人など特別な人のことだけではなく、すべての働く人々に通じる。能動的に全体の中での自分の位置づけ、つまり“役割”を意識することで、本来のプロとしての仕事のやりがいや責任は生まれる。

“自分の役割”を見つけて突き進んでいるツチヤさん。そんな彼が現在関わっている最もホットな作品が、ヴィジュアルノベル「AKIBAの街〜神々の境界線〜」だ。

AKIBAの街〜神々の境界線〜 ツチヤコウヘイ
ノベルゲームを作る

ツチヤさんが制作に関わった“ヴィジュアルノベル”「AKIBAの街〜神々の境界線〜」が、8月28日に行われた「COMITIA93」にて発表された(今後はコチラのサイトから)。「当初、“ギャルゲー”みたいなのを作ろうぜって話があったんですけど、それをじゃあ実写もので作ろうってことになって」。企画が始まったのは2009年の年末。ツチヤさんは撮影と演出を担当した。「ごちゃまぜで下世話な雰囲気が好きなんです」。自分の好きな世界観が出せたと自信の作品だ。

9ヶ月間にも及ぶ制作期間に二日間休みなしで行われた撮影。ハードな日々だっただろうがスタッフは皆少年のように楽しそうだ。子供のころ好きだった友達との秘密基地作り。彼にとって“ものづくり”とは、今も変わらない“秘密基地遊び”なのかもしれない。

“二十代後半”になって見えてきたもの

「これからは自分が手を動かしていくというよりは、“仕事を作っていく”立場になっていくべきなんじゃないかと感じている」と言う。「もちろん、自分自身で手を動かしてものを作っていく作業が好きなのは変わらないんですが、今後拡大していくためには一人では限界があると思う。人に任せられることは任せて、自分はもっと全体を見ていけるようにならないといけない」。今まではできなかったようなことを、今後可能にしていきたいという気持ちだ。

今回のヴィジュアルノベル制作からも刺激を受けた。「増山さん というプロデュース能力に関しては自分よりはるかに優れた人間と組むことによってその気持ちは大きくなりました」。はなからのグループというよりも、それぞれ“これが得意”“これはできる”というような人が集まって一緒にものを作れる。そんな“仲間”たちと共に進んでいくことが、ツチヤさんの理想だ。

人とのつながり

フリーランスで活躍しているツチヤさんに、人とコミュニケーションをとるときに心がけていることがあるか聞いてみた。

「一にも二にも、誠実さだと思います」。
自分で言ったことは、必ずやる。約束は守る。問題が起きた時でも、常に最善の手を取るよう努力する。基本的なことゆえに最も大切なことだ。

「それと…」。彼は続ける。「揺らがずに踏み込むことじゃないでしょうか。 新しい人と話したり、人と新しいことをしたりする時には、自分は一切揺らがないように、自信のない素振りは見せないようにしています」。踏み込むことを恐れない姿勢だ。

ふつうとは?

「よくわかんないです」と笑う。
「なんか、どっかズレてる人ほど自分のことを“ふつう”だと思って行動している気がします」。そういう人が好きだと言う。

「みんなふつうなんでしょうけど、環境が変わることによって突然ふつうじゃなくなったり、また落ち着いてくることによってふつうになる。そんなふうに思います」。

“映画”と“紙芝居”の間。誰でも楽しめる“ヴィジュアルノベル”

最後に今回のヴィジュアルノベルに関して一言。

「映画と小説の中間“電動紙芝居”だと思ってもらえるといいですね。今までそういったゲームなどをやったことがない人でも必ず楽しめる作品になっているので、是非やってもらいたいです」。



技術の発展によって、システムや価値観が変化している“今”。しかし、どれだけ“変化”しても変わらずツチヤさんを走らせるものは“おもしろいもの”を作ってやるぞ!という気持ちだろう。

今までないに等しく見落とされていたものたちが大きな力を持つようになる。小さな声たちがつながり、大きな花を咲かせていく。今まで以上に感覚を研ぎすませて、世の中の変化に乗り遅れずに楽しみたいものだ。

座右の品
iPhone

これのおかげで、どこでも仕事ができるようになったのですが、いつでもつながりすぎるので、たまにたたき折りたくなります。

【略歴】

1982年7月10日生まれ 千葉県松戸市出身/東京都渋谷区在住 松戸市立新松戸西小→私立渋谷教育学園幕張高等学校附属中→同高→早稲田大学第一文学部(中退)→制作会社AD、自主制作映画助監督→映像コンテンツ制作会社→web制作会社→現在、フリーランスで活動中【血液型】O型【星座】かに座【家族構成】父、母、妹、弟【趣味】映画鑑賞、お店開拓【お気に入りスポット】代々木公園【尊敬する人】中村うさぎ、松尾スズキ【好きな食べ物】刺身、つけめん【嫌いな食べ物】チョコレート【好きなタイプ】一緒に飲んでいて楽しい人【苦手なタイプ】体育会系が過ぎる人【座右の銘】「おもしろき こともなき世を おもしろく」【子供のころの夢】総理大臣(総理大臣が一番お金持ちな人だと思っていた。笑)

【イベント告知】『AKIBAの街』完成記念イベント開催!
<AKIBAのマスロック>
2010年9月4日(土) /18:00 OPEN 18:30 START
秋葉原クラブグッドマン
料金:3000円(ワンドリンク、『AKIBAの街』本編ディスクつき)
出演:アンチバッティングセンター(コント)、かものなつみ(アイドル)、壊れかけのテープレコーダーズ(バンド)、でき心(バンド)
トークゲスト:藤澤花恵(「CanCam」読者モデル)

ツチヤさんのtwitterは→http://twitter.com/hamstyle21

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2010-08-31-TUE<






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