女優 蜂谷眞未 劇団「ウンプ・テンプカンパニー」

女優 蜂谷眞未 劇団「ウンプ・テンプカンパニー」

《後編をアップしました》
“女優”と聞いたとき、どんなことを思い浮かべるだろう?「美人」「特別」「セレブ」「モテモテ」「一般人とは違うんじゃないかなー」「変わっていそう」。蜂谷眞未さんは現在、女優として舞台やテレビCMなど、多方面で活躍している。インドネシア、フランス、ドイツ、ポルトガルと日本のクウォーターという彼女は整った顔立ち。舞台や画面の中で、その存在自体が特別な印象を受ける。そんな気鋭の女優はどんなことを考え、普段なにをしているのか? 演劇に対する気持ちから、意外なプライベートまで、興味津々に迫ってみたい。(文責:吉田直人)

“女優”になるために

“女優になりたい”。初期衝動は蜂谷さんが小学二年生のときに観た、舞台「オズの魔法使い」だった。「これを自分がやるんだ!」と決めた。ところが、その後、彼女の人生は忙しくなってしまう。父親の仕事の都合でカナダに二年間の転居。日本に帰ると、今度は日本の勉強についていけなくなってしまい、通っていたエスカレーター式のお嬢様学校の中等部へは進めなかった。公立校への進学も考えたが、英語を活かそうとインターナショナルスクールへ進む。するとまわりは英語ペラペラな子ばかり。逆に活かそうとした英語の壁にぶちあたってしまう。負けずぎらいな性格で努力するが、英語力が中途半端な自分が嫌になり二ヶ月間、登校拒否になってしまったこともあった。

「ずっと芝居をしたかったけれど、とにかく勉強が忙しかった」。
蜂谷さんがようやく念願の初舞台を踏んだのは、中学三年生のときに所属した鎌倉にある市民劇団「くるま座」でのことだった。高校に入ると演劇部にも入った。芝居をしながら毎日塾へも通い勉強も一切手を抜かない日々。さらには恋愛にも勤しんだ。

時代は90年代後半、女子高生がもっともノッていた時代の“リア十”(リアル十代)のリア充。ブイブイいわせすぎて、先輩からは「ナマイキだ」と言われ、ついたあだ名は“ブラックマミ”。彼女いわく「あの頃が一番輝いていたかも」。そして、見事に高校をトップの成績で卒業し、それにより、ずっと女優になることに反対していた父親についに役者への道を認めてもらうことができた。彼女が女優になるために努力し続けたのは学校の勉強だったともいえる。一見関係なさそうなものもが、つながっているのが人生だ。「芝居をしたいなら、ちゃんとしたところで学びなさい」。桐朋学園短期大学演劇学科へ進むこととなった。

劇団「ウンプ・テンプカンパニー」“喜劇”との出会い

次の転機は現在所属している劇団、「ウンプテンプ・カンパニー」への参加だった。

「“喜劇”というとドタバタ劇のようなものが連想されるかもしれないけれど、ウンプテンプの喜劇は、人間の滑稽な部分とかおかしな部分を描いているんです。見ていてクスッと笑ってしまうような部分を」。

桐朋学園では正統派なタイプの 役柄が多かった。それに対して、ウンプテンプ・カンパニーに所属して、人間の醜さや闇を演じられるようになった。“笑わせる悲劇”、“コントとは違う喜劇”。「自分のやりたい芝居はここにあると思った」。

“ブラックマミ”の本領を発揮できる舞台と出会ったのだった。

届けるために

心から自信を持って作り上げている舞台公演。それでも伝わらないことがある。

「ウンプテンプの芝居は観ていて疲れる。ただでさえ、日常生活は毎日忙しくて疲れているのに、観劇しているときまで疲れたくない」。あるお客さんの言葉だった。その人にとっては、これは正直な気持ちだったのだろう。芝居の質が高い、低いという問題ではなく、ニーズが違っていたのだ。

よい作品を作れば、必ず届くだろうか? これはすべての表現者にとって避けて通ることのできない問題だ。作品のクオリティ、それは当然、一番大切なものだが、どんなに優れた作品でも、そこに存在するだけでは人々のところまで届いてはくれない。

一般の商品に置き換えて考えてみるとわかりやすい。「商品」を作ったら、それを「流通」させて「宣伝」し、「販売」しなければならない。日々変化していく“今”の状況や人々のニーズに合わせて、牛丼は安くなったり、ガソリンスタンドはセルフサービスになったり、調剤薬局は24時間化したりする。しかるべき変化について行けないものは、淘汰されてしまう。それがいいとか悪いとかいうことではなく、世界とはそのような仕組みによって動き、人々は行動している。

演劇はどうだろう?

蜂谷さんは言う。「“演劇”というものの地位を上げたい」。

役者や演劇関係者以外でどれだけの人が劇場に足を運んでいるだろう? 役者の友人からの招待以外の一見のお客さんがどれぐらいいるだろう? 映画や音楽ライブとは違う、いわゆる“希少性”を味わいたくて観に行く人もいるかもしれないが、それだけでは“マニア”の世界でとどまってしまう。それでいいなら構わないが、演劇を作っている人々の気持ちは違うようだ。少なくても彼女の場合は。

「(一部の有名な劇団はともかく)小劇場での公演活動は、趣味か河原乞食のような見方をされてしまうことがある。それではより多くの人々のところまで届かない」。前出のお客さんのように、疲れなく観られる作品を欲している人もいれば、難解でも観たあとに心にひりひりとひっかかるような作品を欲している人もいるだろう。そうした様々な人々のところへ“届ける”つまり観てもらえる状況になるには、演劇という“商品”の流通は十分に機能しているとはいえない。映画や他のものと比べて、作品の質では全く劣っていない演劇が、正当な評価をされないとしたら、それは非常にもったいないことだ。

「有名になりたい」。蜂谷さんは舞台でだけでなく、テレビやほかの活動にも積極的に取り組む。ときには自分がやりたいこととは違うものもあったとしても。「私が有名になりたいのは演劇というものの、世間の認識を変えていきたいから」。優れた作品を作ることだけでなく、広く“演劇”というものを取り巻く世界全体を見つめている。

「役者というものを仕事としてやろうと思った。そのくらいやらないと認められないと思う。もっと追いつきたい」。この“追いつきたい”という言葉に蜂谷さんの気持ちが見える。「役者」というものがほかの職業と比べて世間から、一部の有名人をのぞき不当に低く見られてしまうことに対する不満。でも、それ以上に“理想とする演劇の向上を絶対に達成する”という強い意志を感じた。

女優 蜂谷眞未 劇団「ウンプ・テンプカンパニー」

匂いフェチ”で恋愛至上主義

芝居に対する思いを語ってもらったが、そんな女優さんの日常とは、素顔とはどのようなものなのか。

「匂いフェチです」。

芝居以外の話をしようとした瞬間、この言葉が返ってきた。オンとオフの落差がでかい。これが女優の振り幅か。「ちょっとかがせて!くさぁ」みたいなのが好きらしい。「“ふつう”ってニュートラルのイメージ。でも、それは難しいと思う」。蜂谷さんにとって、お酒を飲んで、楽しくおしゃべりしているときが“一番ふつう”だと言うから、素顔はほかの仕事をしている同年代の女の子と同じだ。また、銭湯へ行くのも好きで、よく一人で行く。「銭湯でおばちゃんやおばあちゃんたちの会話をずーっと聞いている。ときどき話しかけたりして」。会話がどんどん脱線していく“女性の先輩方”の会話は興味深いものが多いらしい。「ときどき妙に詩的な表現が出てきたりして面白いんです」。

最近の趣味は料理。もともと食べることが大好きな彼女は、多忙なスケジュールの合間をぬって料理教室へも通っている。「“婚活”している女の子がいっぱいいるんです。“婚活女子”が。みんなお洒落して行くんですよ!かわいいエプロンしたりして。情報交換したり、今どきの女子の話を聞いたりするんです。そのときは私も婚活女子になってる」。

そんな蜂谷さん自身の恋愛、結婚観は。「あれだけ芝居の話をしてきてあれなんですが…」と笑って「恋愛が上手くいっていないと芝居も無理!“生きている意味がない”って思っちゃう」。恋愛至上主義らしい。

クールとはほど遠い!?熱い“のめり込み型”

“恋愛至上主義”をかかげる蜂谷さん。「のめり込むと、こう!なっちゃうほうで」。恋人とケンカをして一人カラオケボックスにいるときに、恋人から“今近くで待ってる”という連絡がきた。彼のことしか頭にない蜂谷さんは、ものすごくあわてて選曲のリモコンをバッグに入れて店を出てしまったことがあった。

また、そのクールな容姿とは裏腹に熱い内面の持ち主でもある。電車内でもめごとやケンカが起きるとだまっていられず、思わずとめに入ってしまうことも。「三人がけの椅子の隣二人がケンカをはじめたときがあって、けっこう混んでいるのに誰もとめないしイラッとして、“やめなさい!”って」。その後、ケンカしていた二人は降りたが、残された自分へのまわりからの視線が恥ずかしくて、仕方なく降りる駅より手前の駅で降りて、やり場のない気持ちにホームで大泣きしたという。

別の日には傘を持ってケンカしようとしている人がいたので、その傘をつかんで「何やっているんですか!!やめなさい!!」。男性でもなかなかできない勇ましさ。しかし、電車や駅でのトラブルは恐い事件につながることもある。彼女には、熱い思いは心にしまって、駅員さんを呼ぶことをおすすめしたい。

一番、自然でいられる場所

「場数を踏んでいる役者というのは、緊張などしないように見えるが。「今でも本番前にはすごく緊張しますよ」という。蜂谷さんはそもそも、クラスのみんなの前でリコーダーを吹いたりするが苦手な子だった。「今でも、役なしで“蜂谷眞未”として話すのは苦手なんです」。授業での発表や、就職活動の面接、重要なプレゼンで緊張するときがあったら思い出してほしい。堂々たる演技を見せる女優さんだって“リコーダーの発表”は苦手なのだと。誰だって緊張するし、苦手なものだってある。それは特別なことではない。

緊張を乗り越えて、開演の幕が開く。本番が始まった舞台の上は蜂谷さんにとってもっとも自分らしくいられる場所だ。「ニュートラルとは違うけれど、舞台の上が一番きどらない自分でいられるから」。

役者として生きていく

「人と人でやっているもの。人間の関係性を描くのが芝居というもの」。蜂谷さんの芝居観だ。昔は自分のためにやっていた芝居。今は人のため、観客や相手役のためにやっている。「それを知ったら楽になった」と話す。

「役を演じるときに、その役をものすごく上に置く。自分の知らない、理解を越えたものを描くことが役者の使命」。今回の「牡丹江非恋歌」は彼女から見て時代も国も違う人間たちの物語だ。「自分のアンテナ、キャパを大きくして、ときには自分が、普段は考えないようなことも考えるようにする」。役に、そして観客に届くように。

インドネシア、フランス、ドイツ、ポルトガル、そして日本のクォーターである蜂谷さん。昔から、何人?のような質問には“いろいろ人”と答えていた。「昨年スペインに行ったら、一番開放的な気分になった。(ポルトガルとか)ラテン系の血が濃いのかな」と笑う。

カンボジアで大使をしている父親から「やるからには日本にとどまらず、世界を見ろと」と、小さいころから言われてきた。それは外国で活動するという意味だけではないだろう。世界で起こっていることや歴史をとらえ、それを表現する。ときには“理解を越えたもの描く”。「どんなに状況が違っても、人間は人間だから」。簡単なことではない。全身のアンテナを研ぎすませて歩く役者の道だ。尊敬する女優、新井純さんの言葉「やれることしか、やれない」を胸に、今日も難しい芝居に挑んでいく。



そんな蜂谷さんが出演する舞台は11日から。

「ウンプテンプ・カンパニー」は2011年までの期間限定のプロジェクト。後半に入り、観られる公演は貴重だ。第9回公演「牡丹江非恋歌」(作:加蘭京子)は満州国を舞台にした幻想的活劇。2010年11月11日(木)〜16日(火)日暮里d倉庫にて。

座右の品
ローズベージュの口紅

今の自分に一番合う色。スイッチが入る。

【略歴】

1982年3月4日生まれ 東京都大田区出身/世田谷区在住 私立清泉小(鎌倉)→聖ボニファススクール(カナダ・エドモント)→清泉小→サンモールインターナショナルスクール→横浜市立仲尾台中→私立横須賀学院高→桐朋学園短期大演劇学科→同専攻科中退→某芸能事務所所属→現在、(株)サイプロダクション所属/劇団「ウンプテンプ・カンパニー」【血液型】B型【星座】魚座【趣味】料理、ウォーキング(ノルディックウォーキングのインストラクターの資格あり)【お気に入りスポット】谷中【尊敬する人】祖母と女優の新井純さん【座右の銘】ない【好きな食べ物】辛いもの、エスニック料理【嫌いな食べ物】焼いていないパンのトマトサンドウィッチ【好きばタイプ】横柄ではなくて、プライドがあって自分を持っている人【嫌いなタイプ】横柄な人【子供のころの夢】女優

ウンプテンプ・カンパニー第9回公演「牡丹江非恋歌」
作:加蘭京子 
構成・演出・美術:長谷トオル
作曲・神田晋一郎
出演:吉野翼、蜂谷眞未ほか
2010年11月11日(木)〜16日(火)/日暮里d-倉庫 (http://umptemp.web.fc2.com/contents/new/new.html)

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2010-10-24-SUN






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