渡辺夏子: 東京ふつうの人新聞

写真家・渡辺夏子さん(21)は、自分が芸術性の高い人間ではなくふつうの人間であると言い切る。14のとき一眼レフのカメラを自分も手にして以来、手放すことはない。今ではおとぎ話をはじめ、数々のバンドのライブ写真を貪欲に撮る写真家兼普通の大学生だ。(文責:富永玲奈)

「写真は恥ずかしくないし、続くな、と」

シャッターは直感で押す。大学の講義で学んだ写真理論が邪魔をして直感が鈍ることもあるが、そういう時は深く考えないようにしている。「一番いいのは無意識に撮ったもの」。それは写真を撮る場数を踏んで生まれた主張なのだろう。写真はアートと結びつくことが多いが、難しいことを退け無意識を大事にする夏子さんは、自分がふつうであることをむしろ武器にして写真を撮っているような印象を与える。凡人コンプレックスと自称する彼女を通して見えてくる「ふつう」とはどんなものなのだろうか?

千葉県で生まれ育った夏子さんは、両親の仕事の都合で中学時代、静岡県の片田舎で過ごした。学年全員で80人ばかりの小さな学校。都会で育った彼女にとって、この田舎は異質なものに映った。山と川しかなく、学校のみんなとも話が合わない。「悶々としてました。つまらない」。しかしやることも他にないこの環境のおかげで彼女は大好きな音楽や写真に没頭することができたと振り返る。

中学2年のとき夏休みに写真を使ったカレンダーを作ったところ、美術の先生に褒められたけれど、それを仕事にしようとはまさか思ってもいなかった。それよりも椎名林檎を聴いてロックに目覚め、写真よりも音楽のほうが好きだった。「音楽やる人になりたいと思ったけれど、ならないだろうなっていうのがどこかにあった」。それもあり、違う方向に自分を持っていこうとしたが、それが写真だとはまだ意識すらしなかったという。おそらく写真以外にもまだまだ色々な可能性が広がっていたからだろう。

退屈な田舎に耐えられず、高校で千葉に戻った。真剣に将来のことを考えたとき思った。「音楽が好きだから自分の得意なもので音楽に携わりたい」。そこで浮かんだのが写真だったという。それでも高校ではバンドを組んでオリジナル曲を2つ作ったが、自分は絶対に音楽に向いてないと夏子さんは確信。「すごく恥ずかしかった。絶対続かないって。根拠はないけれども、なぜか写真には自信があった。写真は恥ずかしくないし、続くな、と」。

写真家A-changに積極的にコンタクトを取ってみたのも高校時代だ。直接会って自分の写真を見てもらったという貴重な体験をしてさらに、自分とは切り離された、漠然と遠いと思っていた写真業界がぐっと近づいたという。「自分と写真の世界が初めて繋がった出来事だったかもしれません。できるかもって思いました」。

バンドや写真に精を出した高校時代だったが、それだけではなくちゃんと学業にも励んでいたというあたり、普通の高校生をしていたのだなということがわかる。「ふつうに大学にも行きたかったし」。もうすでにやりたいことが決まっていたにもかかわらず、夢にまっしぐら、というよりも「ふつう」を守りつつも思慮深くちゃんと自分のやりたいことをおざなりにしないしっかり者な夏子さんが見え隠れする。

芸術的な作品より、ふつうの人にも分かるような写真を

大学で入った音楽サークルで、世界の見晴らしがぐんと広がった。音楽の話ができる友達に出会うこともできたし、個性的で思い思いに表現したり音楽を鳴らす人たちとの交流は刺激的で楽しい、と嬉しそうに話す。しかしそこで出会ったバンドのライブに足を運び、写真を撮って最初に味わったのは、意外なことに「がっかり」。「撮るの下手くそで(笑)。どーんと落ち込んだ。『撮った写真見せてね』と言われても、見せられるものが何もないくらい下手で」。現像するたびに落ち込む日々がしばらく続いた。それでも撮り続けたのは「辞めたら恰好悪いから」。やってやろうという気持ちは今でも続いている。

「写真ってアートっぽいから凡人の私にそんなことできるのかっていうのがあって、『写真家です』って名乗るまでに自分の中で戦いがあった」。ライブの写真を撮り始めたのと同じ頃、夏子さんは写真家・梅佳代が撮る日常の中のユーモアな瞬間を切り取ったような写真と出会う。「梅佳代おもしろい!誰でもわかるような、こんな面白い写真がどうして評価されないんだろうってずっと思っていたら2年後くらいに有名になって。『あ、やっぱりこういうの認められるんだ』っていう自信がついた。被写体がアートっぽくなくて見る人と共感できる写真って凡人のセンスが大事だと思うんです。これでいいんだな!って思いました」。

それがきっかけで夏子さんは自らを「写真家」と名乗ることを決意。写真家と名乗れば、どんな写真も作品として見てもらえることがわかり、写真家と名乗る責任を感じたという。それまでは評価される写真のよさがわからなくて、きれいな写真とか、撮れても自分は満足しないだろうと漠と思っていた。それだけに、凡人な自分の感覚を武器に写真家として活動をしていこうと思えたと話す。

「私ふつうの人間だから。芸術性の高い人には、芸術的な作品を任せる。私は無理だから、ふつうの人にもわかるような感覚の写真を発表していきたいな。アートわかんないよ!みたいな人の感覚で」。

ふつうに会社で働けるような人、社会的に生きていける人、そんな人を夏子さんはふつうの人だと定義する。同じ年齢の人たちは来年から新社会人として働きだすが、彼女は写真に専念する生活を選んだ。

「ふつうの人の感覚は、もしなくしたくても、なくならないと思うんです。写真をやってなかったら?何かしら表現する人でありたいけど…でもやっぱりふつうに働いてるだろうな」。

武器はふつうであること。そう言い切れてしまうことはむしろとてもユニークだ。写真を撮り続ける彼女のふつうが他愛のない日常のふつうにフォーカスを当てたとき、そこに写し出されるものはきっと、「背伸びも気の衒(てら)いもない最も生き生きとしているふつう」に違いないはずだ。

座右の品
男子(梅佳代)

誰にでも勧められる写真集

【略歴】

1987年3月17日生 千葉県出身・在住私 立鷺沼小学校→静岡県立中川根中学校→千葉県立検見川高校→明治学院大学文学部芸術学科在学中【血液型】A型【家族構成】父・母・兄2人姉1人【趣味】音楽鑑賞【好きな食べ物】豆【嫌いな食べ物】レバー【お気に入りスポット】冬のひと気のない幕張の海【尊敬する人】家族全員【座右の銘】直感を大事にする【好きなタイプ】自分がある人【嫌いなタイプ】人をバカにする人【子どもの頃の夢】うさぎ→ケーキ屋さん

【告知】渡辺夏子・個展開催 2008年8月13日〜24日(月曜休) 百音(高円寺)http://www.cafemone.com/

【ここで写真が見れます】「Flicker」 http://www.flickr.com/photos/ntk0317/

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2008-06-23-MON






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