平野大

林立する無機質なビルディングが幾何学的な光を放ち、夜空を切り分けている。街路樹の金色に煌めく、幻想的というにはあまりに商業的な年の瀬のイルミネーションに通行人がしばし足を止める。東京、丸の内。ここは常にどこか工事している。去年までなかったものが今年はある。スタティックに進化するダイナミックな街。「どっかの予備校の広告にもあるように、信念さえあれば少しずつでも成長していける。この言葉いいなと思う」。音楽で身を立てるために上京してはや5年、平野大さん(31)は今、新しい音楽の境地に入った。(文責:保科時彦)

「どうしてもこれをやらなきゃならないってくらい音楽が好きなんだ」

「履歴書とかで趣味の欄を音楽全般と書く。聴く、やる、作る、やらされる(笑)」。およそ音楽に関わるものならなんでも摂取していこうという姿勢。私が初めて彼のライブを見に行った時は今から約4年前、当時はグランジ・ロック系のバンドでギターとヴォーカルを担当していた。しかし彼は今まで組んだバンドはすべて満足していないという。

「ここ2年くらいブランクがあるかな。でもやりたい方向は絞ってあるし、メンバーが見つかりさえすれば自信はあるよ。今はディスコが入ったメロディアスなポストパンク系な音楽で曲を作っている」という。ネガティヴ・ロックのグランジから大分ポップな進化である。「78〜79年頃の音楽が今聴くと新鮮でいい」。

彼には進化しなくてはいけない理由がある。「どうしてもこれをやらなきゃならないってくらい音楽が好きなんだ。『やりたいことがあっていいね』って言う人もいるけど、もうそれしかないってくらい好きなんだ」と5年前に言っていた。今もその気持ちに変化はない。この成長を支える強い信念はどこから来たのだろうか。

彼は中学三年の時に“たま”の「さよなら人類」を聴いて音楽に目覚めた。少年は即座に「こんなに素晴らしい曲なんだからみんな好きだろう」と思った。しかし現実にはそれほどマジョリティには受け入れられてはいず、「自分の価値観はみんなが共有してるものと思ったけど、どうやら違うと感じた」と言う。

高校一年の時にギターを買い練習に明け暮れるが、学校では友達も少なく、暗く、勉強もできなかったという。今の彼の雰囲気からすると想像もできないのだが、大学に落ちて浪人が決定したとき「ストレートで地元の大学に行くと同級生と同じ学年で入学することになるから、むしろ解放された感じがした」と漏らすほど高校には辟易していたらしい。卒業により精神的にも風通しがよくなって殻が破れた感じがしたという。

大学時代に初バンドを組んで、コピーをしていたが、程なくして辞めて名古屋の路上で弾いていた。20歳の時に両親が離婚して「ふわふわしてリアリティがない」学生生活を送っていた、と当時を振り返る。大学卒業後、学生時代からバイトしていたレンタルビデオショップに正社員として採用が決まり3年ほど勤める。「始めから2〜3年ほどお金貯めたら上京して音楽をやる予定だった」と東京に対する当時の憧れを口にする。

「最高傑作を作って、それが受け入れられなければ諦めるよ」

その後、東京ではアルバイトを転々としながら音楽活動を開始する。「うまくはいってないけど、もう少しいたい。常にこれからだと思っている」とこの5年間と今の距離を確認する。「当然、歳のことも考える。34歳で成功した人から『長くやってれば何かはあるよ』と言われた。そのくらいの年までは頑張ったほうがいいと思う。色々仕事してきてスキルはついたし、定職に就こうということになれば、それもできる。だからこそ、『自分は何が向いているのかな?』というような消去法じゃなくて、敢えて音楽を選択したい」。

夢か生活の安定か……。本気でこのジレンマに接したことのない人と、ここを超克した人には大きな隔絶が生じるような気がするのは私だけだろうか。「仕事の部分で、焦ってないっていうのはある。だから夢を追っているんだけどね。もし夢か生活かの選択を迫られれば、その時の立場で考えるよ。『夢の代わりになるもの、夢の上を行くもの』が見つかれば、夢を諦められるんじゃないかな。ダメだなと思って諦めることもあるだろうけど、自分は『もうダメだな』って思えるほどまだ出し切ってない。最高傑作を作って、これ以上のものは作れないくらいになって、それが受け入れられなければ諦めるよ」。そう、この違いなのだ。夢を本気で追っている人は、たとえ失敗してもけして卑屈になることはない。また本気になれる人だけが夢を追えばよい。

「周りからは色々言われるよ。歳を考えろとか。名古屋の路上で弾いてるときに『なんでこんなことやってるの?』って言われたけど、やりたいからやってるに決まってる。他に理由があると思ってるほうがおかしいと思う。伝えたいメッセージがあるわけじゃない。相手と自分が身体で共感する何かを得られればいいんだから」。

この地、東京で音楽をやっている人は数多いて、プロを目指している人間も多い。しかし成功するかどうかの瀬戸際で活動しているようなミュージシャンはそこまで多くはないと彼は言う。自分の音楽に対する静かな自信。これが掻き鳴らす音のダイナミズムになる。

座右の品
フェンダー・ジャズマスター

ギターは何本か持っていて、30万のレスポール(ギブソン社)も持っているけど、36000円で買った安いジャズマスターの気持ちよさに惹かれる。
安いのに他の高いギターより興味を引く気持ちよさがいい。

【略歴】

1976年2月28日 31歳 愛知県西尾市出身 東京都新宿区在住 西尾市立平坂小→同市立平坂中→愛知県立吉良高校→浪人→愛知学院大学文学部宗教学科→レンタルビデオショップ社員→インターネットのモデム配り→出会い系サイトサクラ→インターネット関連のコールセンターなど派遣業【星座】魚座【血液型】A型【家族構成】父妹【趣味】音楽全般【好きな食べ物】カレー【嫌いな食べもの】生姜【お気に入りスポット】(フジロック中の)苗場【尊敬する人】ジョン・レノン(大学の卒業論文は「宗教とジョン・レノン」)【座右の銘】象は死ぬまで成長する【好きなタイプ】ポストキュート(顔が取り立ててかわいいわけではないのだが、雰囲気、しぐさ、行動などが魅力があってかわいいと感じる人)【嫌いなタイプ】自分の価値観をみんなが共有している価値観だと思っている人【子どもの頃の夢】野球選手【行ってみたい国】イギリス【欲を言えば欲しいもの】車(と駐車場)【好きな曲】KFCのCMソング(出演加藤ローサ)「む〜しゃ、む〜しゃ、幸せ〜」【音楽で成功する目安】音楽のみで食べて行けるほどではなくてもいいから「フジロック出ない?」と主催者側からオファーが来るようになれば成功だと思う

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2007-10-15-MON






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