浅川薫理 舞台女優

ドキュメンタリーを書いていると、どこからどこまでが真実で、どこからどこまでが演出なのか分からなくなることがある。それはグラデーションに色分けを要求しているようなもので、虹を七色と断定するようなものだ。「一回の舞台で10万円の赤字になることもあるけど、いつも見に来てくれる人もいるし、演技をしている時の方が素の自分になれるような気がするんです」。役作りのためにカットしたアシンメトリーな短い前髪の下に浅川薫理さん(26)の大きな目がある。この目は彼女の固有のものだが、この髪は彼女の演技の一部なのだろうか。(文責:保科時彦)

黒柳徹子のキュリー夫人を見て演劇を志した

何故彼女は演劇に興味を持ったのだろうか。「高校の時、黒柳徹子のキュリー夫人を見てやってみたいと思ったのが切っ掛けです。それで大学で演劇をやりたいと思って演劇科のある大学を受験したんですけれど落ちてしまいました。女子大も受かっていたんですが、女子高だったから女社会にずっといると不健康かなと思い共学の大学に入学しました」。

もともと緊張しがちで人前で何かをするのが苦手だったという彼女は「このままでは男の人に騙されてしまうじゃないか」と不安に思い、免疫をつけるためか、男友達が欲しくて共学の大学に入学したものの自分とは雰囲気の違う男の人に戸惑ったという。曰く「ギャル男ばっかりで辞めたくなりました」。

「オリエンテーションでも友達が出来ず、このまま友達が出来ないのでは、と思いました。たまたま大学のエレベーターで乗り合わせた女の子に最後のチャンスと思って声を掛けてみました。これが運命の出会いだったんです」。その人が映画研究会に入るというので、一人で行動するのが苦手だった浅川さんも一緒に入ろうと思ったそうだ。

「映画も演劇に通じるところがあるし、いいかなと思いました。今では知らない劇団に参加できるくらい一人で行動することに慣れましたけど、昔はトイレに行くのも誰かと一緒っていうくらい一人行動が出来なかったです」。結局勧誘されて、その人と一緒に演劇サークルに入ることになるので当初の目的は達成できたようだ。

「自分が初めて中心になれたのが舞台だったんです」

演劇人というとバンドマンのように人前に出ることが好きなんだろうと多くの人は思う。バンドならスコア通り正確に音を出せればいい場合もあるのだが、演劇ではそうはいかないだろう。やはり彼女も自分に自信があるのだろうか。「自分に自信があるわけではないんです。ふと何で演劇やってるんだろうと思うこともあります。オーディションに落ちた時は自分を疑ってしまいますし」と語る。

しかし別人格を演じるため、学ことが多いのもまた事実だ。「野田秀樹の『オイル』という広島の原爆についての芝居をやった時、被爆者の話を直に聴くことができました。普段なら引いてしまって中身まで聴けなかっただろうけど、演劇を通じて肉迫するとこまで知ろうと思えた」。つまり芝居する前の自分と、した後の自分は違う自分になっているということだ。しかし、役の時の自分は虚の自分であると断じるのは早計であると思うのだ。

そんな彼女は最近失恋した。「バイト先の人と付き合っていました。人望もある人だし、遊んでそうに思えないから、信じきっていたんですけど、その人は他の女の人にも手を出していて、嘘で塗り固められたような人でした。すっかり騙されたけど勉強になりました。この経験は演技にも活かせるし、周囲の人の優しさにも気付けて良かったです。人を信じることが出来なくなりかけたけど、そんな人のために人を信じることを止めるなんて勿体無いじゃないですか」。

こう聞けば、彼女の演技と私生活は地続きだということが分かる。そしてその男性も私生活において何かの役を演じていたのも事実であろう。彼だけではない。あらゆる人は演技して生きている。演技の自分と素の自分。虚と実の境界線はどこにあるというのだろうか。

「実らしきもの」はある。そう生活だ。「実家なんで収入に対する不安はあまり無いです。先が見えないから楽しいのは芝居も一緒です。結婚願望は今はないです。一生独身は無理なんで35歳くらいまでには、、、。結婚してもやりたいことはやるのでそういうところを理解してくれる人がいいです」という。本当の自分と仮の自分。どっちの自分が本物なんだろうか。「芝居の安定が欲しいので大きくていいところがあれば劇団員になりたい」。これも本音だ。

一体なにが彼女を芝居へ掻き立てるのだろうか。

彼女は言う。「初めて人に認められたのが舞台なんです。主役が全てではないと思いますが、私はそれまで何かに選ばれたり賞状とか貰うこと一回もありませんでした。卓球も部活で1位になったのに最後の試合で外されたり、絵も選ばれたって聞いたのに、結局選考で落ちたり。大学一年の時、ある芝居の主役の幽霊に受かって、初めて認められました。自分が初めて中心になれたのが舞台だったんです」。

彼女のアシンメトリーな髪は紛れもなく彼女の固有の一部である。しかし同時に演技の一部でもあるのだ。事実は一つしかないが、真実は人の数だけあるし、その真実は虚と実で構成されている。そしてその明確な境界線なんてどこにもないのだ。

座右の品
バック・トゥ・ザ・フューチャー

ドクの最後の台詞「未来は白紙」っていうのが好きだから。

【略歴】

1981年5月7日 26歳 横浜生まれ 埼玉県比企郡鳩山町育ち 東京都府中市在住 鳩山町立松栄小→同町立鳩山中→私立山村女子高等学校→帝京大学文学部国際文化学科→パスタ屋にてキッチンのバイト【星座】牡牛座【血液型】A型【家族構成】父母【趣味】ジャグリング、登山【好きな食べ物】大トロ【嫌いな食べ物】生肉【お気に入りスポット】江ノ島【尊敬する人】母と祖父【座右の銘】転ばぬ先の杖【好きなタイプ】やりたいことを持っている人【嫌いなタイプ】嘘をつく人【子どもの頃の夢】団子屋【もし芝居をしていなかったらしていたこと】料理

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2007-09-10-MON






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